
坂崎千春さん(前編)
Suicaのペンギンもとてもかわいらしくて好きだけれど、坂崎千春さんは「イラストレーター」としてだけじゃなく、「絵本作家」としても活躍されている。
坂崎さんの絵本の中で紡ぎだされる世界。それは時に切なく、時に愉快で、たいていの場合「心が撫でられている」ような気持ちになる。読んでいると、大きな気持ちで自分の未来を考えてみたり、ふと昔の自分を懐かしんだりもする。(聞き手:小林里咲 /写真:近浦啓 / 収録:2007年4月23日)
動物がもともと好きなんです
―坂崎さんの書かれたエッセイを読んでいると子供の頃からたくさん本を読まれていたように感じます。子供の頃、すごく好きだった本はありますか?
子供の頃に長い本を読んだのは「エルマーの冒険」という本。3冊シリーズでエルマーという男の子が竜を助けに行くお話。それが童話なんですが、挿絵が結構入っていて、読みやすい本だったんです。すごくキャラクターがいきいきしていて、竜がすごくかわいくて。その本に母がルビをうってくれたんです。その本が残ってました。
自分で読めるようになったのが嬉しくかったのを覚えてます。
―他に子供の頃読んだ本で影響を受けた本などありますか?
「ドリトル先生」のシリーズが大好きでした。やはり動物がもともと好きなんですね。動物とおしゃべりできるところや、ちょっと入っているイラストも自分の好みだったんです。 それと、「ちいさいモモちゃん」というシリーズの童話。本の児童文学界で有名な松谷みよこさんの作品です。
お母さんとモモちゃんという女の子の日常のささやかなことを綴る話です。
子供ながらに衝撃的だったのが、はっきりとは書かれていないのですが、モモちゃんの両親が離婚してしまうんですね。そういった話はあまり童話には描かれないですよね。その不安な気持ちのようなものがよく表されていて、ざわざわした不安な気持ちになる本でしたね。
―坂崎さんのエッセイの「片思いさん」に「大島弓子さんの漫画で私の思想の少なくとも5分の1はつくられたと思う」と書いてありましたが、「綿の国星」のどのようなところに引き込まれたのでしょうか?
猫が人間の目線でという設定でしょうか。動物がまず好きなんです。それとファンタジーと現実をつなぐのが本当にスムーズで自然なところが好きでしたね。ささやかなことや、暗い気持ち、言葉に出来ない部分をすごくうまくお話にしてるなあ、と思って読んでいました。
―エッセイでも「綿の国星」について、「「優しさと残酷さ」「諦めと憧れ」など反対のものが集まって一つになっている凄さ」と表現されてましたね。
それらが全部詰まってる気がして。それまで自分が知ってる漫画はドラマチックだったり恋愛がメインのものでしたけど、そういうものではない、女の子の複雑な気持ちがよく表されているなあと思うんです。猫が人間になりたいと信じていて、猫の目線から見た人間の物語のようなお話なんです。
動物を主人公にするとエッセンスだけ書ける気がする
―それは、今坂崎さんが絵本で動物と人間の気持ちをうまくシンクロさせるという作風に多少影響はありますか?
それはあると思いますね。動物を主人公にすると、人間とは違って核の部分というかエッセンスだけ書ける気がするんです。人間だとどうしても何歳でどんな女の子で、という設定の部分に目が行きがちになりますが、動物だとシンプルにお話をかける気がします。自分としては動物の方が書きやすいですね。
思春期の頃は絶対こんな家やだ、と思ってました(笑)
―「片思いさん」のエッセイにご両親のことを「二人が注いでくれたものは私にしみこんで、私をつくってくれた、私は幸せだった」という一文がありましたね。エッセイの中の「サーチライト」でのお父さんとのエピソードがとっても感動的でした。その坂崎さんのご家族、お父さんや、お母さんはどんな方だったんですか?
大きくなるまで、父は仕事や自分の周りに興味があって、子供にはあまり関心がないのかと思ってました。
入学式も中学になったら足も運ばないし。母は専業主婦だったので、家のことは母が仕切っているという印象でした。。
―ご兄弟は?
妹が一人です。
小学校までは我が家も楽しいというかほのぼのしてたんですけど、中学高校くらいから妹が反抗期になったんです。私は親とも対立もせず、ボーっとしてましたけれど。
はたから見たら全く普通の家族だったかと思うんですけど、自分としては思春期の頃は「絶対こんな家やだ。」と思ってましたね(笑)。
当時は本の世界に逃げ込むわけではないですけど、家の煩わしい事に関わりたくないというような思いはありました。
本だったら頼むと絶対買ってくれた。おもちゃとかはなかなか買ってくれないのに。
―逆にご両親の影響で本をたくさん読むようになったというのはあるんでしょうか?
それはすごくありますね。母がよく絵本をたくさん読み聞かせしてくれたので、かなり影響があると思います。
本だったら頼むと絶対買ってくれたんですよ。おもちゃとかはなかなか買ってくれないのに。漫画はだめだったので、立ち読みしてました(笑)。
それと、近所にすごく本をたくさん置いているお家があったんです。少し大人っぽい本もあって、そこで当時すごくたくさんの本を読みました。
―ということは、子供の頃はどちらかというと絵をよく書いていたというより本をたくさん読んでいたお子さんだったんですね?
そうですね。ただ、自分では普通だと思ってたんですけど、小学校の頃にパラパラ絵本みたいのを作ったことがあったんです。
スヌーピーが大好きで、スヌーピーの絵本と同じようなものが作りたいと思って、自分の家でかってるインコを主人公にして作りました。お話はほとんど一緒で、主人公だけ変えて・・(笑)。
―そのほかに何かオリジナルの作品を作ったりということはありますか?
そうですね。お話を作りたいなと思い・・・、自分でも謎なんですけど、紡績工場で働く女の子のお話を・・(笑)。設定は継母にいじめられるんだけど頑張って工場で働いてる女の子。その話を途中まで書いてました・・・。我ながら、なんだこの設定は!と思います(笑)。

意外と子供時代に自分のやりたいことってヒントがある
―今思うと、今の仕事をするようになったのは必然かもしれないというようなエピソードってありますか?
そうですね。その小学校の時の絵本を作ったことなんて、まさに今やってることと同じだなと思いますね。中学生、高校生の時はこの仕事をしたいと強く思っていた訳ではないんです。
だから意外と子供時代に自分のやりたいことってヒントがあるのかなと思うんです。
―無意識なところに出るというか。
そうですね。中学生とか高校生になると、こういうことは仕事にするにはいいんじゃないかと現実に結びつけてしまったりしますよね。
―安定・不安定とかも考えたり。
そうそう。こういう仕事は人にもかっこいいと思われるとかそういう考えが入りがちですけど、子供の頃はそんなことも関係ないですよね。(次週、中編に続く)
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