ピーター・バラカン

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ピーター・バラカンさん(後編)

ピーター・バラカンさんのインタビュー最終話となる後編は失敗することや悩むことの必要性、日本の教育に対する考察や、インターネットの普及によるコミュニケーションの課題や問題点、今後のインターネットと音楽業界の展望についてのお話などを伺った。(聞き手:近浦啓 / 写真:近浦啓 / 収録:2007年6月6日)

"失敗しつつ、軌道修正しながら先に進む"

―日本の社会とか教育を見てみると自然の流れというよりも、ガチガチなマニュアルがあって、ここに行くにはこうしたらいい、ああしたらいい、と積み上げていく形が多いように思えます。よく聞くのは「何々になるにはどうしたらいいのか?」ということ。それは、本来ならただひとつの答えがあるわけではなくて、自分自身が失敗しながらもなんとか辿り着かないといけないものだと思うんです。その点で、以前ピーター・バラカンさんが紹介していた歌詞がありまして、とても印象深かったので、ここで読ませてもらいます。

I've got a right to be wrong
My mistakes will make me strong
I'm stepping out into the great unknown
I'm feeling wings though I've never flown
I`ve got a mind of my own
I'm flesh and blood to the bone
I'm not made of stone
Got a right to be wrong
So just leave me alone

Right to Be Wrong』Joss Stone

あー、Joss Stoneですね。大好きな歌です。彼女が17歳位の時の歌なんですよ。

ジョス・ストーン

―この歌の「失敗する権利」という言葉がすごく力強いなあと思うんです。

今、日本に限らず大人達が子供をレールに乗せようとし過ぎると思うんです。どういう職業につくかとかどういう大学に行くかとか、行くか行かないかとか全部当人が決めればいいことであって、失敗する権利を奪おうとしてるのではないかと思います。そういう世の中になってきたと思うんです。多くの人が挫折したり、ひどい人はうつ病になったり。他にもいろんな精神的な障害を抱えたりするのはそのせいじゃないかと思います。ほっといてやったらと言いたくなってしまいますね。

―紆余曲折しながらも、人との縁や出会いを大事にして自分の道を探りながら生きていく。後になって振り返ったら、それらの出会いや縁が必然的なものように見えるのかもしれませんね。

そうそう、そうなんですよ。すごくそう思います。僕が日本に来たのもどこかに縁があったんじゃないかと思うんですよ。具体的で明確なきっかけがあったと言えなくても、それはどうでもいいことであって。結果的に自分のためになったことなら、それは素敵なことですし。

自分のためになったということも、うまくいったから「ためになった」とは限らないですよね。失敗して、「あの時こうすれば良かったんだ」ということが一つずつ勉強になるんですからね。失敗しつつ、軌道修正しながら先に進む。僕も失敗したこともいろいろあるし、挫折したこともいろいろあるし。それもしばらく経つと忘れちゃうもんなんですよ。その時は悩みますけどね。でも「悩む」ということが人間にとってすごく重要だと思うんです。

何年前かNHKでやったドキュメンタリー番組で、今の日本で行われている小さい子供の英才教育についての番組があったんです。まだ終身雇用制度が健在だった時の話ですけどね。もう2歳か3歳の時からもの凄い高度な勉強をさせて、一流と言われる幼稚園に入って、そこから小学校、中学校、高校、大学とエスカレーター式に上っていく。そういった環境で勉強ばかりやらされた人が、自分が望んでいた、あるいは親が望んでいた一流企業に入ったところ、人間関係でいろいろ摩擦があったり、そういう人間関係の問題が起こったときに、勉強ばかりしていたから遊ぶことをろくにしていなくて、精神的な発育が遅れているために悩むことができない、悩んだ経験がない、勉強ばかりしていて悩む暇がなかったんでしょう。それで悩むことができないから、会社のストレスが身体に出るという話のドキュメンタリーだったんです。22、3歳の、まだ会社に入りたての若い男の人が病院にかけこんで、病気を抱えてしまう。それで薬で治したり、カウンセリングを受けたり。そういう現象を僕はすごく怖いと思いました。いかに人間にとって悩むことが必要かということを見せつけられた感じがして。悩むというのはとにかく遊ぶとか、若い時にいろんな人間関係を経験することから学ぶものが多いし、時間の余裕が必要だと思います。今の日本の子供達はほとんど塾に行ってるじゃないですか。だから結局大学入試を根本から考え直す必要があると思います。就職の形もここ10年位でだいぶ変わり始めていると思いますから、もっと政府も考えなければいけないし、子供を持とうとする大人達もどういう風に子供を育てるかということも考えなければいけないと思います。自分達の親がどこでどう失敗したかということを振り返りながら、、、。といっても難しいかもしれませんね。人間誰でも自分の経験したこと以外わからないですからね。

ピーター・バラカン

マスメディアも、もっともっとこういう話題を取り上げて、みんなに考えるきっかけを与えてあげるべきだと思います。これからの日本の社会はもっともっと問題を抱えてしまうと思いますよ。

"さらに10年たてば予想もしない世界になっているかもしれない"

―そのお話と関連して、1990年代の終盤から2000年にかけてインターネットが勢いよく拡大して、それによって音楽のソフトの基盤にあるインフラストラクチャの部分が完全に変わった。それで、例えばパーソンtoパーソンの部分が、今までだったら電話していたところがメールで済むようになったり、今までだったらつかまらない相手が携帯電話のメールでつかまるようになる、そういったコミュニケーションのあり方も随分変わってきたと思います。グーグルで検索したら何でも出てくるようになり、これまでだったらいろんな人に話を聞きつつ、得なければいけない情報だったのがデスクトップだけで終わってしまう。とても便利な時代になったと思うんです。僕もその恩恵をかなり享受しているんですが。この時代にピーター・バラカンさんが感じる課題や問題点、それと今後の音楽業界とインターネットの関わりについてのお考えを聞かせて頂けますか?

さらに1時間は語りますか(笑)。まず、人間同士のコミュニケーションに関しては、確かにおっしゃる通りです。お互いに気持ちを通じさせるためのものですからね、通信の手段というのは。そのことを忘れないというのが基本だと思います。自分の経験でも、こう書いたのに思ったよりきつく響いたな、ということがあったり、あるいは相手からもらったものもそう。やっぱり電話でちゃんとお互い声が聞こえる場合は声のトーンでどういうニュアンスで言っているかというのは無意識で伝わるんですが、メールではなかなか伝わりにくい。だからいろんな記号を使ったりするんですが、ちょっとそういうところは気をつけなければいけないと思います。

それと僕も気がついたら家で仕事している時は朝から晩まで5、6時間コンピューターの前に座りっぱなしだと、本当にぐったりする時もあるし、誰とも話してないということもあります。僕は家族と暮らしているから、疲れたと思ったら妻や子供と話してすぐに気分転換できるけど、1人で暮らしている人などは誰とも話さないことが何日も続くようなことは、フリーの人なら特にありえますからね。これはけっして健康にも良くないと思います。自分で意識的に気分転換をしたり、人と話す機会を自分で作る努力をしないと、どんどん孤立する人達が増えていくような気がしますね。インターネットもものすごく便利だけど、新しい媒体だから、付き合い方を自分でちゃんと考えておかないと、不都合なこともあると思います。

音楽については本当に革命が起こっていますね。著作権という概念が間違いなく変わってきていますし。果たして著作権という概念が残るかどうかという議論も今展開されています。若い人は全く違う価値観を持っていますね。CDを一枚も買ったことがないという若者も少なくないし、有料ダウンロードを用いている人もいれば、違法の無料ダウンロードだけを使っている人もいますし。どのように決まるかはまだわかりませんが、頑ななことを言っていた多くのレコード会社でさえ、考え方が変わり始めている。つい先日、EMIがiTunesにDRM抜きの音源を提供することになったから、おそらく他の大手の会社も時間の問題でしょうね。どのように変わるか僕もはっきりはわからないけれど、CDという媒体はマスの市場ではあと5年持つかなという気は今はしています。ただ、完全に無くなるかと言ったらそうでもないでしょう。

しかしインターネットが誰でも使えるようになったのはここ10年ですよね。96年に日本ではインフラが敷かれたけれど、それでもまだまだ使っている人は少なかったですからね。あれから約10年ですけど、その10年の間にどれだけ変わったか!うちの子供たち、特に下の子は91年生まれですから、インターネットのない時代をほとんど覚えてないと思うんですよ。この10年でこれだけ変わったんだから、さらに10年たてば予想もしない世界になっているかもしれないと思います。

音楽との付き合い方も、80年代以降の音楽はジャンル的にはすごく多様化していますから、これはこれで面白い現象だと思うけれども、専門的な知識をもたない普通の消費者にとっては、なかなか分かりにくい時代になっていると思います。大型CD店に行っても何がどこにあるかお手上げ状態になっている人も結構いるでしょうし。iTunesにアクセスしても何をどう見ればいいのか、わからない人もいるでしょう。もっともっとマスメディアがきちんと機能しなければいけない時代なんですけどね。インターネットで僕はラジオ番組をやっていますけれど、レコード会社の権利意識の問題もあって、なかなかそれが日本で出来る環境にまだなっていないし、弊害が多いですね。

―2011年に地デジに完全に切り替わりますし、そこでもしかしたら音楽専門チャンネルなどがもっと増えたりして、それが一般的になって、例えばお金を払ってでもチャンネルを聞きたいという人が増えたらいいなと思いますね。

そうですね。今アメリカでは衛星ラジオがすごく普及してますよね。XMSIRIUSというものと。なぜあそこまで成功したかというと、GPSを使って車で使えるようにしたんです。新車を買うとだいたい、デジタルの衛星ラジオが受信できるチューナーが装備されてるんです。それと月々の使用料が安い。USEN並みのチャンネル数があって、確か月々10ドルちょっとの使用料だと思います。日本も、USENのようなところも衛星のオペレーションもあるんですから、車で受信できるようにして個人に向けて使用料を安くすればもっとすごくユーザーが増えると思いますよ。どうしてそれができないのかな。僕もmusicbirdというところで番組をやっていますけど、他の衛星放送でも難しいですね。チャンネル数も少ないし、あの形では増えないと思います。良いビジネスモデルがあれば、成功するチャンスはまだまだいくらでもあると思いますね。(完)

撮影協力:Cafe Apres-midi(カフェ・アプレミディ)
今回撮影に協力して頂いたカフェ・アプレミディは音楽プロデューサーとしても有名な橋本徹さんがオーナーを務める渋谷の人気カフェ。ピーター・バラカンさんもよく訪れていらっしゃるそうです。ゆったりと配置されたソファ、BGM、心地よい時間が流れています。
〒150-0041 東京都渋谷区神南1-15-7 5F
Phone / 03-5428-0510
Open / 12:00-25:00 (日~木) 12:00-28:00 (金・土・祝前日)

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