向井亜紀さん(前編)
テレビの司会をはじめ、ラジオ、エッセー執筆、講演などで幅広く活躍している向井亜紀さん。明るく常に周りに気遣いながら、自分に正直に進んでいく生き方に感銘を受けたインタビューとなった。前編では向井亜紀さんの子供の頃の育てられ方、芸能界に入ったきっかけや生放送のテレビ番組に対する向井さんの姿勢などのお話を伺った。(聞き手:小林里咲・近浦啓 / 写真:近浦啓 / 収録:2007年7月9日)
忘れられないクレパスの思い出
―私がテレビや本などで受ける向井さんのイメージはとても気丈で誠実な印象なんですが、向井さんはどんな家庭で育てられたのか、あるいはどんな教育を受けてこられたのか伺えますか?
自分の家が一番ノーマルだと思っていたんですが、今思い返すとあまりノーマルじゃなかったのかもしれません。自分の親が「我慢すること」にこだわっていたんじゃないかなということが、子供を持つようになってやっとわかってきました。今の子供たちは我慢する機会が少ないだけじゃなく、すぐに褒められますよね。私の子供の頃は、おもちゃが欲しいと言ってもクリスマスか誕生日にね、と我慢するように言われたり、お菓子も3人兄弟でしっかり分けてと言われたり。いつも自分の望みが叶うまでに我慢があったり、順番があったり、お手伝いをしなきゃいけないというような条件があった気がします。小さい頃、親戚の家で大きなケーキを出され、感激のあまり苦しくなるまで食べまくって「この子ケーキ食べて鼻血出してるわよ」なんて言われたこともありましたっけ(笑)。
先日、幼稚園の先生が今の子は恵まれすぎていて感謝の気持ちがなかなか育たないと言っていました。その時「あ!」と思ったんです。ちょっとしたことでも嬉しかったり感謝の気持ちにつながったり、そういうことを私はいつの間にか親から教えてもらっていたんだと気づかされました。あの頃は「まったくうちの親は・・・」なんてベソかいているだけでしたから。
忘れられないのはクレパスの思い出。幼稚園の頃、お絵かき用にクレパスを買ってもらいますよね。その後、小学校に上がる際にクラス全員が同じお道具箱を買うことになったんですが、うちの母は12色のクレパスが入っているその箱の中を見て、「12色のクレパスなら、この子は持っていますからお返します」と言って、なんと返品したんですよ。図工の時間、みんながピカピカのお道具箱から新品の綺麗なクレパスを出しているのに、私は箱も違えば、中身だって折れたり汚れたりデコボコ状態。好きな色のクレパスが小さくなると母が1本売りのものを買い足すという具合でしたから、メーカーの違うクレパスたちが箱の中でひしめき合っていました。でも、ずっとそれで絵を描いていたら、結果的にはそのクレパスにすごく思い入れができて、実は今も現役なんです。あまり使わない色は幼稚園の時からのオリジナル・クレパスのままですが、子供たちもそれを使って充分お絵かきをしています。「ママのクレパスぐちゃぐちゃ!」なんて言われながらも、一見汚くたって綺麗な色が出るんですから、子供たちと張り合って私もそのクレパスでガンガン芸術していますよ(笑)。
新しいものが欲しいからといって使えるものを捨てたり持ち腐れにしてはだめだという家だったので、小学校の頃は幼心に本当に困っていました。クレパスだけじゃなくて、学校で使うお裁縫セットも、和紙を貼ったような昔ながらのお裁縫箱をたまたま持っていたので、それにバラ売りのお裁縫道具を入れさせられました。ま、それもまだ使ってるんですけどね。お習字セットだってお中元でもらった素麺の箱に入れていたんですから、筋金入りかも(笑)。
近頃でも「亜紀のそのシャツ、10年前も着てたよね」なんて言わるんですが、みんなにいつも同じシャツを着ている人と思われても特に構わないんです。お気に入りのものを大切に使い続けるのが楽しい。知らず知らずのうちにそういう価値観をすり込まれちゃったんでしょうね(笑)。
自分が話したことにリアクションしてもらえる喜び
―向井さんはその後大学在学中にラジオのパーソナリティーのオーデションを受けられたそうですが、そのきっかけを伺えますか?また、本格的に芸能界の仕事をするようになったのはどのような気持ちやいきさつがあったんでしょうか?
高校3年生の時にモデルになりませんか?というお話があったんですが、ちょうど受験勉強の真っ最中だったのでお断りしていました。ホリプロのモデルセクションの責任者さんだったんですが、熱心に誘ってくれつつも、とてもおおらかに「受験が終わったら、考えてみて」と言ってくださっていたんです。当時の私は中学の理科教師になりたいと思っていましたので、その後、生物学科へ進学。その方からまた連絡あった時に大学に受かったことを報告したら、「じゃあ、大学に行きながらアルバイトでモデルの仕事をすれば?こういう仕事を体験したら世界が広がるんじゃない?」と言われて、それがきっかけになりました。
その方の勧めで、折りしも女子大生ブームの中『ミスDJリクエストパレード』という女子大生がラジオのDJをするという番組のオーディションへ行くことになったんです。私はラジオを聴きながら勉強できるタイプではありませんでしたし、我が家で流れていたのはNHK第一放送だけでした(笑)。そんな環境だったので民放のラジオを聴いた経験はゼロ。が、当時その番組はもの凄く人気があったんです。4000人以上の女子大生がオーディションに応募してきていたんですが、みんな驚くほど上手でしたね。大学の放送研究会でちゃんと練習してきている人が「…here we go!!」なんてキメているのを見て私は茫然とするばかり(笑)。
あとから聞いたんですが、最終選考の際にその番組の名物プロデューサーさんが「向井亜紀はとろいけど、ああいう子がいてもいいんじゃないか。放送研究会色に染まってなくて逆にリアルだと思う」と推薦してくださったのだとか。オーディションで優勝し、その番組に出演することが決まったのが6月でしたから大学入学から2ヶ月足らず、まだまだ埼玉の高校生気分全開の私はかなり目立っていたに違いありません。
オーディションで「女子大生という時間の中でやってみたいことは?」と質問され、「目白までの定期券を持つことが出来たので、これから山手線の全部の駅で降りてみたいと思っています」って答えたのは私だけだっだはず(笑)。その上DCブランドブームが始まった頃でみんなとてもオシャレして来ていたのに、私は白いシャツにGパンにサスペンダー姿で出かけて行ってたんですよ。通学電車がものすごく混むんでヒラヒラした格好はできないと思い込んでいたおダサさん・・・。
そのラジオの時に教えられたんです。「亜紀さんの個性を出すのが一番いいんですよ。みんなが上手だから、英語で曲紹介をするからなんて関係ありません。あなたが何を思ったかをしゃべってもらいたくて私達は亜紀さんを選んだんですから、自分の思うようにやってみてください」と。そこで本当にのびのびとやらせてもらえたおかげで、自分のペースをゆっくり探すことができたように思います。
最初は全然うまくできなくて、自分は何でこんなに出来ないんだろうと落ち込む日が多かったんですけど、だんだん楽しさがわかってきました。続けるうちにリスナーからものすごくたくさんの葉書が届くようになって、飛び上がるほど嬉しかったですね。自分が話したことに対してリアクションしてもらえるという喜びをそこで知ってしまったんです。その達成感ややりがいにハッキリ目覚めた私は、中学の理科教師になろうかどうか迷った末、目指すのは教師じゃないと決意して大学を辞めちゃったんです。親には怖しく怒られましたが、今はさりげなく(笑)応援してくれるようになっています。
"画面に映ってないところに勝負がある"
―芸能界でのお仕事では向井さんと言えば、『朝だ!生です 旅サラダ』の番組がお仕事としてはとても長くやられていて大きな存在かと思いますがどうでしょうか?
そうですね。素晴らしい番組にたくさん巡り合って、ラジオパーソナリティや欽ちゃんのコメディ番組、情報番組のレポーターや司会役と、いろいろな出会いを体験してきましたが、『朝だ!生です 旅サラダ』が一番長い番組で、もう15年になります。
―向井さんにとってはどういう存在ですか?
「家に帰る」という感じですね。もちろん自分の家はあるんですけど、1週間に1度ほっとする場所に帰って「ただいま~」とお茶をすするような感じとでも言いましょうか。仕事をしに行くわけですが、とても安心した気持ちでいられるんです。何をやっても「あ・うん」の呼吸でお互いにフォローできると思えるからでしょうね。
―ただ、生放送でサブ司会だと大変なことも多いんじゃないですか?
全然大変じゃないですよ。私は生放送の方が好きなんです。もともとラジオをやっていましたし。長時間収録して面白いところをピックアップする方法で番組作りをするのも中身が濃くなって素晴らしいと思います。が、なぜか私はあと何秒しかないという雰囲気の方がしっくり来るんです。番組を観ている人と同じ時間の中に自分も一緒にいられるからかもしれません。間違ったら「ごめんなさい」って素直に謝ればいいと思うし。素の自分がどんどん出ることになっちゃいますけど、昔々ラジオの時に教えてもらったように自分らしさを伝えようとする姿勢の方が私には合っていると思います。
番組にゲスト出演する女優さんや俳優さんに「生放送って苦手なんですよ、どんな顔してたらいいんですか?台詞が決まっていれば助かるのに・・・」とよく言われます。旅サラダも台本はありますけど、誰もその通りにはやりません(笑)。生放送で台本通りにしゃべったら歯が浮いちゃいますよ。やっぱり生ものなんですね。
素を出すことが恥ずかしいと思われるゲストもいる一方、私は素じゃない「作った自分」を出すことの方が恥ずかしくなって照れてしまうタイプ。素を出して「ちょっと感じ悪いわね」と言われたら「そう、私ってこういう人間なの」と諦めがつくんです。編集されることのない生放送って本物の人づきあいとよく似ているんじゃないでしょうか。旅サラダに出ている時の私は普段よりちゃんとメイクをして小綺麗な洋服も着ていますが、中身は思いっきりありのままですので、皆さん、どうぞよろしくお願いします(笑)。
―生放送が本当に合ってらっしゃるんですね。それに安心感を持って仕事ができる環境ってとても魅力的ですね。ゲストの方々も向井さんがいて心強いんじゃないですか?
ちゃんと自分の言いたいこと伝えられるかしら?とガチガチに緊張してらっしゃる人も少なくないので、そこをほぐすのが自分の役割だと思っています。ちょっぴり緊張している表情もファンにはたまらない魅力だと思いますが、本人が困ってらっしゃるようだったらちょっとだけ体に触れてみたり、CMの合間に冗談を言ったり、前日の打ち合わせの時からほぐさせてもらうこともあります。それもというか、それこそが私の大切な仕事ですから。何があっても横から私が必ずフォローしますから心配ご無用ですよと。「大丈夫です。今の感じで超バッチリですから、そのままやってください」といつもこそこそ囁いている私(笑)。画面に映ってないところに勝負がある、そこは心がけていきたいと思います。(次週、中編に続く)
こちらの記事もチェック!
Trackback : 0
- このインタビューへのトラックバック先URL
- http://www.personup.net/mt/mt-tb.cgi/21