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片山正通さん(中編)

前編に続く中編のインタビューは、独立後のお話、A Bathing Apeのお仕事をされるきっかけ、Wonderwall設立などのお話から、インテリアデザインにおける片山さんのスタイル、「アート」と「デザイン」の違いに関する考えなど、盛りだくさんお話を伺った。(聞き手:近浦啓 / 写真:近浦啓/収録:2007年8月7日)

「普通のことをちゃんとやろう」という意識

―黒川勉氏と結成された事務所、H. Design Associatesの立ち上げ後は、独立して一つ一つ作品を作られるわけですが、独立前と独立後を比べて、例えば心理的な面など、一番変化したことはどんな点でしたか?

僕がスタッフをしていた80年代後半は、賑やかなモノや変わっているデザインがもてはやされていた時代でした。そんな中、僕も黒川も、「デザインは“はりぼて”のようなもので人を騙すような行為であってはいけないのではないか?」と常々疑問に思っていたんです。
「デザインというのはちゃんとリアリティがあって、必要なものであるべきで、その中で楽しいものであったり、感情を喚起できるようなものなければいけない。そういうことを考えて社会に返していれば、絶対にチャンスが来るんじゃないか」という話しもしていましたね。二人とも「普通のことをちゃんとやろう」という意識を常に頭の中に持っていました。

漠然とした思いが具体的なコンセプトになってきたのは、やはり独立をした後ですね。設立した92年から97年位は、本当に仕事がない時代が続いたので、「考える」時間だけはたくさんありました。同時に、「どうやったら食べていけるか」という事にも直面していましたが。厳しい時代だったので、今後どうあるべきかを切実に考えました。僕にとって必要なことを考えた「良い時期」でした。バブル崩壊直後に独立をするなんて周りからは無茶をすると言われたんですが、もし独立して最初から仕事がうまくいっていたら、今頃ダメになっていたかもしれません。

そういった時期を経て、98年に原宿のA Bathing Apeの"BUSY WORK SHOP"のデザインをするという、僕にとって初めての「大きなチャンス」を迎えたんです。

"八方美人かもしれませんが、できるだけ多くの人に僕のデザインを愛してもらいたい"

―その5年の仕事がなかった時期から、A Bathing Apeのお仕事をされるきっかけとはどんなことだったのですか?

ちょうどA Bathing Apeからお話を頂く前くらいから、少しずつですが雑誌に紹介されるような仕事をしはじめていました。会社の実績としてはまだまだですが。そんな時に、A Bathing Apeが、お店を大々的にリニューアルをするということで、ある人の紹介で、デザイナーであるNIGOさんに会うことになったんです。既にNIGOさんは何人かのデザイナーに会っていて、僕もその内の一人だったんです。

―片山さんの作品集「Wonderwall Masamichi Katayama Projects」に寄稿されたNIGOさんの言葉がとても印象的でした。他にも候補はいたけれど、この人にすべてをまかせたいと思わせる、人柄や何かがあったのかなと思いました。

最初の仕事は1998年。原宿のエイプのショップです。ほかにもっと作風が気に入ったデザイナーがいましたが、片山さんには直観でポテンシャルを感じたんです。プランじゃなくて彼本人に。

Wonderwall: Masamichi Katayama Projects (Frame Monographs of Contemporary Interior Architects)』Masamichi Katayama, Shigekazu Ohno
p.48-49(NIGO氏による寄稿より抜粋)

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どうなんでしょう。そう思って貰えたというのは嬉しいですね。NIGOさんとは、形としてのデザインではなく、「何をしたいのか?」「ブランドとしてどうなりたいのか?」という事を聞いたと思うんです。それが良かったんですかね(笑)

デザイナーとして、僕は「ニュートラルでいたい」と常々思っているんです。僕自身のお店を作るわけではないですし、客観的にそのブランドの本質を考える事が僕の大きな仕事だと思っています。「アート」ではなく「デザイン」ですから、僕はクライアントやブランドが進みたい方向を理解、共有して、インテリアデザインとして具現化するのが役目です。

僕は八方美人かもしれませんが、できるだけ多くの人に僕のデザインを愛してもらいたいと思っているんです。できるだけクライアントとコミュニケーションをしながら、一緒に「本質的に」コラボレーションしないと、まぐれはあるかもしれないですが、普通は成功しないと思うんです。常にホームランか三振を打つのではなくて、必ずヒットを打ち、そしてホームランもたまに打つ、デザイナーとしてそういうバッターでいたいですね。

―その後もほとんどA Bathing Apeのショップは手掛けていらっしゃいますよね?

結果としてそうなっていますね。毎回声をかけてもらっているのは嬉しいです。 ただ、継続的に仕事を頂いてるからといって、緊張感がなくなるのは一番怖いと思っているんです。社会とは常に緊張感をもって接していきたいですし、もちろんクライアントとの関係でも飽きられたくない。「すごく面白いですね。前よりいいですね。」と言われることを繰り返していかなければいけないと思っています。そういう意味では、常にハードルをあげてくれるクライアントがいるという状況はとても恵まれています。僕にとって最大にラッキーなことですよ。

Wonderwall 名前の由来とは…

―Wonderwall設立が2000年ですよね。Wonderwallの名前の由来というのはジェーン・バーキン主演映画の「Wonderwall」からですか?

その映画「Wonderwall」のポスターも持っているんですが、違うんです。実は、明日までに社名を決めなければという日まで決まってなかったんですよ(笑)。その時にCD棚をずっと見ていて、Stevie Wonderのところで目が止まって、「wonder」は文字も響きもいいなと思ったんです。ただ「wonder」だけだと缶コーヒーみたいだし(笑)、じゃあWonderwallでいいかといった感じだったんです。Oasisの歌で「Wonderwall」という曲もありますよね。「WW」で文字並びも綺麗なので、「Wonderwall」に決めました。あまり深く考えすぎず、わりとパッと音で決めましたよ。 Wonderwallってちょっと重々しくて、空間を感じたりしますし、後から聞いたら俗語で終着点という意味があるとのことで、結果的にこの名前で良かったと思っています。

―とても素敵な名前だと思います。アルファベットの並びもすごく良いですね。

そうですか。皆さんによく褒めて頂くので嬉しいですね。でも深い理由はなかったんです(笑)。実は。

"インテリアにおいては、ワンダーウォールが一番だと言われるようになりたい"

―Wonderwallを設立されて、それまで黒川さんと一緒にやられていた頃と違って、片山さんお一人が主宰する会社となったわけですが、クライアントさんの変化などありましたか?

それまでのH. Design Associatesの時は、一緒に仕事をするというスタイルではなく、各自担当の仕事をしていたんです。なので、解散する時もそれぞれ担当物件をもっていくという感じだったんですよ。なので、Wonderwalllになってから、クライアントが変化したという感覚はないですね。

逆に、自分がどう在りたいかという事は考える様になりました。大量生産型のデザインをすれば、経営的には潤います。でも、僕は「片山正通でなければいやだ」と言ってくれる人ときちんと仕事をしていきたいと思ったんです。生意気なようですが、それがWonderwallを始めてからの大きな変化ですね。

自分が成長していく上で、どんなクライアントや仕事と関わるかはすごく重要だと思うんです。「自分はまだ全然ダメだ」「どうしたらこの人を驚かせられるんだろう」と思うような強い相手と仕事をしないと、自分が成長しないんですよね。お金をもらって「教えてください」とは言えませんから、常に自分も成長し続けないといけない。

インテリアにおいては、ワンダーウォールが一番だと言われるようになりたい。この分野は勝ちたいですよね。ですから、あえて厳しい状況に身を置いて、日々勉強です。その勉強がまた面白いんですけどね。

"デザインは、興味がない人を振り向かせるきっかけを作ること"

―お話にあったように、クライアントとの関係において作られるのがデザインのお仕事だと思うのですが、「アート」と「デザイン」というのはやっぱり明確に違うものですか?

似ているように見えますが、違うと思いますね。
アーティストは自分のために、デザイナーは他人のために仕事をしていると思うんです。

アーティストというのは、自分の中からわき出るモノを作品にして、それに対してファンがつく。
僕から見た「アート」とはアイディアの源の一つです。そういう意味でアートは大好きなんですが、僕はアートをするほど自分のことを全然信用していないんですよ。アーティストって自分のことを信用して物を創っているんだと思います。そういう面で僕はアーティストの生き方に憧れているところはありますね。僕はびくびくしながらやっていますから。

僕の仕事は、こういうモノが欲しいというお題があって、それを具現化する仕事。ブランドのファンであれば、誰がお店をつくっても行くじゃないですか。でも、ファンじゃない人に「あ、入ってみたい」とどうしたら思わせることが出来るのか、それを一生懸命考えているんです。デザインは、興味がない人を振り向かせるきっかけを作ることで、当たり前のことをやらなければいけないと思っているんです。例えばレストランだったら食事が美味しくないといけない、そんな当たり前のことをちゃんとしないといけないと思うんです。

ファッションデザインもアートに近いと思っていて、今シーズンのコレクションを発表するときって、自分でテーマを決め、コンセプトを決め、自分の中から生み出して一連のショーやコレクションを作りますよね。

僕の場合は常にニュートラルで、そのブランドを勉強したり話をしたりすることによって生み出していくので、生み出す元となる「何か」が最初にあるんです。最初から自分の中から何かを生み出すほど自分は強くないんですよ。そういうインテリアの仕事は面白いし、僕に合っていると思います。

"そのショップを介して消費者とどうコミュニケーションするか"

―いうなれば、ブランドがあってその消費者があって、その間にいわば、媒介、メディアというような、片山さんというフィルターを通してショップの空間ができていく、そういうことですか?

そうですね。でもショップを作るのが目的ではなくて、そのショップを介して消費者とどうコミュニケーションするかが重要なんですよ。ショップは、そのブランドの「取扱説明書」みたいなもので、ビジュアルで使い方やイメージを伝えるツールでもあるんです。
クライアントも、イメージの中ではショップという空間が完結して、できあがっていると思うんです。ただそれを表現するスキルや方法がわからない。そこで僕が「代理出産」する。「あなたに代わって子供を産みましょう」という気持ちです。

あまりとっぴなことを考えるのではなく、クライアントの言葉を拡大解釈したり、いらないものを捨てたりしながら、デザインを進めていくんです。僕の仕事は、クライアントが本当に何をやりたいのかというのを引き出す事です。そこが見えるまでなかなかデザインに取りかかれません。

―一つの空間を生み出す時に、片山さんだけで完結するのではなく、クライアントさんとの対話やそのブランド自身との対話が本質的に必要だということですね。

それは絶対的に必要ですね。むしろ、それがないとデザインは生まれません。だからアーティストではないんですよ。

クライアントとの対話では、そのブランドにとって良くないと思うことははっきり言う様にしています。コンセプトと矛盾するような事をクライアントが言うと、「コンセプトと違いますよね」と言うんです。それは相手がデザイナーでも、大企業の社長でも一緒です。結果を出さないと、次がない。「またワンダーウォールにお願いしたい」と言われて、初めて成功なんですよ。(次週後編に続く)

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片山正通さんに関する最新情報はWonderwall Inc.のWEBサイトでご覧頂けます。

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