ソニア パークさん(後編)
最終話となる後編のインタビューは、「ARTS&SCIENCE」での洋服作りへの取組み、ソニアさんにとっての「ショッピング」、そしてもの作りの動機、新刊著作の「ソニアのショッピングマニュアルII」のお話、ソニアさんと「東京」、日本に来てからこれまでを振り返って感じていることなど様々なことを伺った。
(聞き手・写真:近浦啓(クレイテプス)/ 収録:2007年11月28日)
"ないから「それ」を作ってみる"
—スタイリストとして服など様々なものをセレクトしていくという事から、今ではご自分で洋服を作られてらっしゃいますね。僕も先日ARTS&SCIENCEの展示会に伺って、お洋服を拝見させてもらいました。「自分で洋服を作る」という所に到達するハードルというのは、わりと軽々と越えられましたか?
いえ、未だに勉強中です。私はデザイナーではありませんし、ブランドでデザインしてる訳ではないんです。一緒にやっているスタッフが生地や材料を探したりてくれるんですが、その材料を見ながらどういうことをやりたいか相談しながら決めています。私達の服の作り方というのは、この素材だからこういう服を作ろうというやり方だと思います。
お店を始めた時もそうなんですけど、私がものを作る時の基本の考えとして、世の中に既にあったら同じようなものは作らないと思うんです。「こういうお店が欲しいのにない」とか、「この服のここさえ無ければ・・・」と思うようなフラストレーションが私の中に常にあって、それなら自分達で作ってみようという考えからお店を始めたんです。
私はすごくいいものがあるんだったら、「それ」でいいんじゃないかと思う。私のもの作りの動機は「ないから"それ"を作ってみる」ということのような気がします。もちろん100%世の中に無いものもないでしょうし、中には好きなところが似てくることもあるでしょうけれど。
服作りの最初は、古着のリメイクでした。1点ものの形が無くなるのは悲しいという想いから、その古着のパターンを取って、丈などのそのままでは着づらい部分を直してみたり、ボタンをアレンジしたり、そういうことから始まりました。それから「こういうパジャマ無いから欲しいよね」と思うものを作ったり。
お店もそうだったんですよ。自分が欲しいようなバスルームのラグやかわいいゴミ箱、コップなどが探してもなかったんです。「そういうものも売っているショップがあればいいのに・・・」と思ったので一箇所で買えるようなお店を作ったんです。でも最初はお店にお客さんが入らなくて大変でした(笑)。
それから、古着のリメイクだけではなく、新しく洋服をつくる方にも広がりました。というのも、古着として良いものもあるけれど、古着は生地も傷んでいたり洗濯も大変。そう思うと「じゃあ、新しいものでこういうものを作ってみよう」と思ったからです。全ては試行錯誤しながらやってきたような感じです。
"良くないと思うものには「No!」という気持ちがさらに強くなりました"
—その延長線上で今のARTS&SCIENCEがあるということですか?
そうですね。私は素人で一緒にやっているアトリエのスタッフはプロなので、彼達に少し流されてる部分もあると思うんですよ。今後はどんどん自分のやりたいことにもっと近づけていきたいです。前回のコレクションの経験としてものを作りすぎたというのもありますし、今回も減らしたつもりが意外と減らなかったんです。そういうもの作りのやり方を私も勉強しているところなので、今後はどういうもの作りになるか自分でも全くわかりません。ただ、先ほど言ったように、きちんと「なぜこれを作るのか。」ということを常に考えてものを作っていきたいなと思ってます。
—「ショッピングマニュアル」を読みながら、「ショッピング」と、「スタイリストとしての仕事や洋服を作ったりすること」の境界線ってどこなんだろうと思っていたんですけれど、おそらくソニアさんにとって境界線は無いんですよね。「ものに魅力を感じてショッピングする」ということと「好きなものがないから、じゃあ、それを自分で作ってしまおう」ということと、わりとシームレスに繋がってるように今ソニアさんの話を聞いていて感じました。
そうですね、そうだと思うんです。意外とデザイナーさんって買い物好きなんですよ。単純に自分が作った服だけ着てるように思うじゃないですか(笑)?そうじゃなくて、皆さん買い物が凄く好きなんですよ。私も自分が作ったら自分のものだけかと思いましたけど、違いますね。有名なデザイナーさんをいろんなショップで見かけるし、実際私のお店にも洋服を作ってる方達が来て洋服を買いますし。たまたま私はスタイリストという仕事があっての洋服作りをしてることもありますけどね。こんなに自分で作っていたら他に欲しくなくなるかと思うと、全くそんなことはないです(笑)。これもあれもいいなと思います。服を見ながら「良く出来ているなあ!」と逆に感動するんです。「大変だろうなあ。こういうものは私は作れないなあ。」と思うと、「これ下さい!」となって買っちゃうんです(笑)。
あと、もの作りを始めて、世の中に対してもっと優しくなれるのかなと思ったんですけど、逆にダメなものに対してより厳しくなりました。「私がこの位できるのに、これは何なの!」と思うことがあるんです。自分で作るとなると、「ある程度は仕方ないね。」という妥協はなくなってきますから、世の中に対しても厳しくなったんでしょうね。良くないと思うものには「No!」という気持ちがさらに強くなりました。
私は素敵なものに出合い、心が震えたときは、
ソニアのショッピングマニュアル II
その背景をうかがうようにしています。
デザイナーはどんな人、素材はどこのものなのか・・・・・・。
よくできたものほど、バックヤードに素晴らしいストーリーを秘めているものです。
そしてそんな話を聞いてしまったら、それを買わずにはいられません。("おわりに"より抜粋)
(マガジンハウス、ソニア パーク 著)
"ある程度のメジャー感があるもので良いものが
「ショッピングマニュアル」のコンセプト"
——最初に出された「ソニアのショッピングマニュアルI」は番号が1から101までで、今度の新刊「ソニアのショッピングマニュアルII」では102から始まりますけど、内容は全くの延長線上ですか?
そうですね。本の形もそうですし、セレクションもそうです。私、実は3冊目まで行きたいと思ってるんです。本の色がPart1は赤、Part2は青色なんですよ。今回ハードカバー本を作って、そちらは保存用で私のショップの限定販売にしてるんですが、そこに次に3冊目で緑色が加わって、3点セットで置いて並べてあったらかわいい!という本当に遊び程度の理由なんですけれど。
次も基本の考えとして、あまりコアなものは紹介しないようにしようと思っているんです。クラフトなどの紹介に行ってしまうと、それもいいんですがこの本で紹介するのは違うと思ったんです。一般的に街で買えるものというのが軸になっていて、少しずつコアになって行けば、3作目では聞いたことのないようなもっと小さいブランドのものを紹介してもいいと思っているんです。
例えば(目の前にあるコーヒーカップを指さして)このカップは、とても好きなんです。でも「ソニアのショッピングマニュアル」IにもIIにも入っていないのです。なぜなら、日本では私のショップでしか販売していないですし、ロンドンでも販売しているところが一軒ほどしかない。本当に小さい所で作っている商品なので、そういうものを紹介するのはマニアック過ぎるかと思うんです。「ある程度のメジャー感があるもので良いもの」というのはショッピングマニュアルのコンセプトですね。
—今回「ソニアのショッピングマニュアルI」も、新装版で発売されますよね。
そうなんです。買えない物は買えないと編集し直したり、値段が変わったものも変更したりしています。私が好きだと書いたものも、無くなったり、日本から撤退したものもありますしね。
—IIの発売、楽しみです。
もう既にIIに「これ、入れれば良かった!」という紹介し忘れたものがいっぱいあるんですよ。どうして忘れたんだろうと思うものがたくさん。洋服や小物などバランス良く紹介しようと思う中でやっていたら、「私の大好きなあれが入ってない!」とか、手遅れになってから思い出したりするんです(笑)。次で紹介できればと思っているんですよ。
— 一冊目はどうして「101」までだったんですか?
大学のクラスで一番ベーシックなコースを「101」と呼ぶんです。English101とか、Art101とか。それから次の段階として201、301と進むんですよ。ものの中で一番ベーシックなという意味合いなので、それにかけたんです。
"「ジャパニーズドリーム」という言葉があるとしたら、私が掴んだものはそれかもしれません"
—ソニアさんが衝撃を受けたというお話のあった、コム・デ・ギャルソンは僕もすごく好きで、ちょうど2001年頃、大阪梅田でばったりデザイナーの川久保玲さんを見かけたんです。もう本当に興奮しました。ちょうどその時にコム・デ・ギャルソンのバッグを持っていたので、ファンだと伝えてサインをもらおうと思ったら、川久保さんの持っていらっしゃったペンが黒色のものしかなくて、「金色のペンを買ってくるのでちょっとだけ待ってもらえますか?」と5分程待って頂いてサインをしてもらったという経験があるんですよ。
あの方がサインしてくれたなんてすごいですね(笑)。
これまでの人生ではいろんなことがありました。日本に来て20年たった今、ある朝ふとこれまでのことを振り返ったんです。コム・デ・ギャルソンに憧れて日本に来て、今は川久保玲さんと仕事ができたり、コム・デ・ギャルソンに自分のお店の洋服が並んでいる。こんなことは、自分でも本当に驚くべきことですね。誰かに「よくやった!お疲れ様。」って褒めて欲しいなと思ったりします(笑)。
"ジャパニーズドリーム"という言葉があるとしたら、私が掴んだものはそれかもしれません。本当にありがたいことです。
"東京という街は私に愛を返してくれた"
—本当にゼロからのスタートだったわけですからね。
そうですね。最初は勉強したこともなかった訳ですしね。環境としても、日本は本当に優しいんだと思います。若い頃、ニューヨークに憧れもありましたけど、ここ東京でやれることをやろうと思ったし、人との出会いにもすごく恵まれました。その出会いの一つとして、カメラマンのホンマタカシさんは私に「写真」というものを教えてくれ、ユースカルチャーというか「東京」というものをきちんと見せてくれました。それと、ヘアデザイナーの加茂克也さんは一緒にものをつくる良きパートナーであり、良きライバル的存在。二人とも私にとって大きな存在です。
私がこのようにやってこれたのは幸運だったこともありますが、「心から私は東京を愛した」ということも理由の一つとしてあると思うんです。「海外でやりたいけど仕方なく東京で」という風にやっていた人達はきっと結果が違うと思います。東京だけは裏切らなかったというか、私も裏切らなかったですし。東京という街は私に愛を返してくれたように思います。
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